◆金水敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』岩波書店、2003年1月

ずっと積ん読状態にあったのだが、お正月の休みの間に一気に読んだ。

「役割語」とは何か。定義がなされているので、それを引用してみる。

ある特定の言葉づかい(語彙・語法・言い回し・イントネーション等)を聞くと特定の人物像(年齢、性別、職業、時代、容姿・風貌、性格等)を思い浮かべることができるとき、あるいはある特定の人物像を提示されると、その人物がいかにも使用しそうな言葉づかいを思い浮かべることができるとき、その言葉づかいを「役割語」と呼ぶ。(p.205)

たとえば本書でも分析の対象となっているが、役割語の一つに<博士語>がある。鉄腕アトムのお茶の水博士は「親じゃと? わしはアトムの親がわりになっとるわい!」というふうに「じゃ」とか「わし」といったいかにも<博士>がしゃべりそうな言葉づかいをしている。現実の世界で、博士のみんながみんな、このような話し方をするわけでもないし、というか、現実社会ではこのような話し方をする人に会ったこともないのだが、この言葉づかいを見ると即座に<博士>を思い浮かべてしまう。

本書は、どうしてこのような言葉づかいが現れたのかを、日本語の歴史から検討したり、役割語がいかなる効果をもたらすのかなどを論じている。非常になじみ深い言葉だが、よく考えてみると不思議な言葉である役割語。その謎は奥深い。


金水 敏
ヴァーチャル日本語 役割語の謎