◆小西甚一『日本文学史』講談社学術文庫、1993年9月

きわめて個性的な日本文学史で、日本文学の有名作品を解説したような教科書的な本とはことなり、本書では著者の文学史観に沿って語られている。

個 性的なものの一つに、時代区分がある。たいてい日本文学史を語るときには、奈良時代、平安時代、鎌倉時代云々とか、あるいは文学部で習うのは上古、中古、 中世、近世、近代といった時代区分なのだが、本書はまず古代から始まり、つぎに中世第一期となり、次に中世第二期、中世第三期と移り、最後に近代で終わ る。中世第一期は、いわゆる平安朝の文学、中世第二期ではいわゆる中世の文学(能や連歌など)、そして中世第三期では俳諧を中心とした江戸期の文学が解説 されている。近代については、あまりページが割かれていない。

もう一つの特徴は、文藝の展開を秩序づける立場として、著者が「雅」と「俗」という表現理念を認め、文藝史はこの二つの交錯によって形成されているとしたところだろう。

著 者は、「序説」のなかで、「雅」と「俗」について少し触れている。それによると、われわれには「永遠なるものへの憧れ」があるという。この憧れは、宗教や 藝術とか科学といった形で表現されたり、それらを媒介にしてわれわれは永遠なるものへと連なっていく。そして著者は、「永遠なるものへの憧れ」は二つの極 を持つとも言う。一つは「完成」であり、もう一つは「無限」である。「完成」の極が、「それ以上どうしようもないところまで磨きあげられた高さをめざす」 のに対し、「無限」の極は「どうなってゆくかわからない動きを含む」と説く。そして、著者は、前者が「雅」であり、後者が「俗」と呼ぶとしている。

独 創的な内容というのは、言い換えればかなり癖のある内容で、少々理解しにくい箇所もあるのだが、それでも時折興味深い指摘などがあり、読んでいてハッとさ せられる。たとえば、江戸の後期の文藝に現実逃避の精神を認めていたりして、なるほどなと思った。日本の文学の知識を得るには適当ではないかもしれない が、一人の文学者の文藝史観を味わい楽しむ本なのだろう。

小西 甚一
日本文学史